胸キュン!恋愛ストーリー

高校で離れ離れになる前に……秘密の天体観測に出かけた二人
■突然のお誘い
私の地元は福島県の山間で、自然の多い場所でした。バスが一時間に1、2本しか通らないような田舎で、中学校の生徒数も決して多くはなかったのですが、その分みんな仲が良く、和気あいあいとしたのどかな学生生活を送っていました。しかし学年も上がり三年になると受験後はみんなバラバラの高校に進学します。特に私は他県の高校に進学が決まっていたので、卒業してしまえばそうそうクラスメイトと会うことも難しくなってしまいます。
それはとうとう卒業まであと数ヶ月に迫ったある日のことでした。突然隣の席の男の子に「今晩、星を見に出掛けないか?」と誘われたのです。
彼は私と一番仲の良い男の子。クラスの中心にいるような明るいタイプではありませんでしたが、真面目で大人しく親切な人でした。私は突然のことで驚きましたが、前から彼のことが気になっていたので嬉しい気持ちもありました。まだ幼かったですし、彼を好きだという気持ちもはっきりとはしていなかったのですが、とにかくわくわくと胸が躍っていたんです。その晩、秘密の天体観測に出掛けることになりました。
急いで家に帰ると、私はリュックに懐中電灯やお菓子などを詰め、はやる気持ちを抑えながら夜になるのを待ちました。そして10時を少し回った頃、私は裏口からこっそりと抜け出して彼との待ち合わせ場所に向かったのです。

■「来年も一緒に見ような」
心臓がドキドキとして頬が赤くなるのを感じながら、出来るだけ急いで待ち合わせ場所に向かいました。彼はもう待ち合わせ場所に来ていて、顔を上げ「走ってこなくても良かったのに」と軽く笑うと、天体観測所に続く長い階段を指さします。険しい山道を切り開いたような階段は急勾配で、途中から階段がなくなり坂道に続くような不安定な道でした。
彼は先頭に立ち、懐中電灯で足元を照らしながら歩き、私も懐中電灯を片手に彼に続きます。暗い山道は静かで何の音もなく、ただ足音だけが響く不思議な空間で、私はただただ彼の背中を追っていました。しかし階段が終わり坂道になると地面がぼこぼことなり足を取られます。そんな時、いきなり懐中電灯とは反対側の手が彼に引っ張られたのです。その手は力強く私を支えてくれて、私たちは無言でしたがしっかりと手を繋いだまま山道を登りました。
天体観測所に着くと、建物は当然閉まっていましたが観測場の下で私たちは野原に寝っ転がり空を見上げました。「うわあ」と思わず口からこぼれるような満天の星がそこにはあり、視界いっぱいに星が光り輝いています。私は感動のためなのか、この土地を離れる寂しさからなのか、突然目から涙がこぼれ止まりません。涙のせいで視界がぼやけ始めると再び手が握られました。彼は星空ではなく私を見ながら「来年も一緒に見ような」と微笑んでくれました。心なしか、彼も涙をこらえているように見えました。
現在は離れて暮らす私達ですが、時折彼から届く星空の写真が私の宝物です。

« 前のページへ戻る

TOPへ戻る